rPSG(増子 津可燦、沼田 出穂、山田 靖子、並木 学)インタビュー
80年代~90年代各種ゲーム機器に使用され、最近再度注目を集めている「PSG音源」いまだからこそ、あえてそのPSG音源を用いてゲームサウンドを手掛けてみようということで企てられたプロジェクト『rPSG』
古くはアーケードゲームからTVゲーム、現在ではPCやスマホなどでも楽しめるようになった様々な環境下でゲームミュージックの礎を築き今もなお現役で活躍を続ける4名が集結。架空のロールプレイングゲームをイメージし、それぞれが完全オリジナルの楽曲を書き下ろしたアルバム『feature in the past』が完成。ゲームと音楽の結びつきなど貴重なお話を伺うとともにそのプロジェクトの実態に迫った。
rPSG(増子 津可燦、沼田 出穂、山田 靖子、並木 学) Interview
増子 津可燦(以下:増)
沼田 出穂(以下:沼)
山田 靖子(以下:山)
並木 学(以下:並)
—– まず最初に今回なぜ、あえてPSG音源を用いて制作をしようと思ったのでしょうか?
沼 : 結構前にGBA(ゲームボーイアドバンス)の仕事をした時に特に使わなくても良かったんですけど、鳴りが良いっていう理由でちょっとPSGを使ったんですね。そうしたら某掲示版でボッコボコに叩かれて、「なんでいまどきPSGなんか使うんだよ」ってものすごい批判を受けたんです。それで私はその頃から「PSGのなにが悪いの?」ってずっと思っていて、PSGを使ってなにかやりたいなっていうのはずっと思っていたんですよ。最近はPSGとかのチップチューンがちょっと盛り上がってきているのでこのタイミングでなにかやってみたいと思ったのがきっかけです。
—– 最近の主流ではないにしろ、以前は皆さんPSGで制作されていたんですよね?
山 : ほんとに昔はゲーム機自体からあのピープーパープーの音しかでなかったんですよ。
—– いわゆるビープ音ってやつですね。
山 : そうです。インベーダーゲームとかああいうのですね。物理的にあれしか音源がなかったのでみんなそれで楽曲っぽく仕上げるっていうのを経験してきたメンバーなんですよね。今のミュージシャンがやるように普通の音源を使ってやるよりも小細工が必要になるので、今回はそれをみんなでやってみましょうっていう感じです。
—– 実際にPSGって今は使われることがかなり少なくなってきているんですか?
増 : 僕はこの間、PSGの仕事やりましたね。
—– それはまた時代が一周してみたいな感じなのでしょうか?
増 : ファミコンのカセットで出しました。
山 : 今はまた昔のゲームを販売したりしているので、ファミコンのソフトを移植みたいな感じですね。
並 : 先ほどチップチューンっておっしゃったんですけど、ファミコンは元々ゲーム機なんですけど、それを楽器にして新しい音楽としてどこまで限界に迫れるか、当時は色々制約とか、ファミコンの性能とかの問題でできなかったこともとっぱらって、そういうのを関係なくファミコンの音で楽しむということを今、若い子たちは結構やっているんですよ。クラブで流したりとか、ゲームボーイだけでDJとかライブをする人もいるし、それでそういうのが流行ってもう10年以上経つので結構市民権は得ているのかなと。
—– 今はゲームミュージックっていう広いジャンルの中で、どれが主流というよりは、色々細分化されてきている感じですか?
並 : そうですね。チップエレクトロとか、チップなんちゃらっていうジャンルもいっぱいありますし、ボーカルものもあるし、ゲーム音楽っぽくはあるんですけど、ゲームとはまた違う世界で盛り上がってきている部分もありますね。
—– 皆さんも普段実際に発売されるゲーム音楽とは別で音楽を制作をされたりもしているのですか?
山 : 私はわりとやってますけど、増子さんとかはどうですか?
増 : 今はゲームがメインですね。アレンジで参加するとか、仮想でシューティングゲームの音源を何十人も集めてつくるみたいなことはやってますけど、基本はゲームですね。
—– ゲームの音楽って色々な場面があると思うのですが、ひとつのゲームにつき何人ぐらいで手掛けるんですか?
増 : それはその会社次第ですね。
山 : 私が前にいた会社は1ゲームにつきコンポーザーひとり、効果音ひとりみたいな感じでやってましたね。カラーが変わるのが嫌だって理由で。
並 : でも年々規模も大きくなってきていて、ひとりではとても納まらいゲームも多くあったりして、そのプロジェクトによりますね。
増 : 例えば任天堂のスマブラ(スマッシュブラザーズ)っていうゲームがあるんですけど、あれはコンポーザー全部で50人以上使ってますね。
並 : アレンジャーも含めてって感じですかね。
増 : そうですね。作曲者はまた別で、元々あったゲームの曲をアレンジしてって感じですね。
—– あと、ゲーム音楽の場合は通常の音楽に加えて効果音というのが出てくると思うのですが、そこも常に同時に考えていくんですか?
山 : それもケースバイケースですね。昔のゲームは発音数の制限があったので、同時に音を出したときにお互いが立つようにっていうのはベースにあったんですけど、今は色々な小細工ができるので、例えば効果音が鳴っているときにBGMを落としたりとかもできるので、昔ほどは考えないですね。
並 : ただ規模が膨らんでいるのでものすごく色々なことを考えなくてはならなくはなっていますね。例えば、オープンワールドという開けたシームレスな世界を冒険していくようなゲームがあるんですけど、それは木が風で揺れる音とか、草がなびく音とかあらゆる環境的な音を効果音で作らなければならなかったり、あと今は3Dに対応してサラウンド的に音を動かしたりとかもあるので、音楽も音楽で、効果音も効果音でちゃんと丁寧に扱わないとその世界観が築けないので、そこら辺技術的には昔より制約とかは取れたと思うんですけど、また新しい世界を表現しようとすると全然難しい映画的な考え方とかそっちに寄ってきているんじゃないかなとは思いますね。
—– 制作されている方々は、アーティストというイメージとクリエイターというイメージが入り混じっている感じがしますね。
増 : どっちかというとクリエイターですかね。自分のやりたいことを全面に出すんじゃなくて、まずはゲームありきの世界なので。
並 : そうですね。ゼロから音楽だけでどうこうという訳ではなくて、必ずゲームや映像というものが伴うので、それを尊重しながら音楽を付けていく感じですね。音楽が先走るケースもあるのかも知れないですけど、あまり通例的にはないんじゃないかなー。やっぱり総合芸術なので音楽だけでアートとかって描くことではないですね。
—– そうすると音楽が知れ渡ることよりも、そのゲーム自体が有名になる方が感覚としては嬉しいものなんですか?
沼 : 「このゲーム音だけは良いよね」って言われるとがっかりしますね。サウンドの評価が何も書かれないくらいの方が成功したって私は思います。まずはゲームありきなので曲だけ評価されても「なんだそれ」って思いますね。
増 : 逆に僕は曲だけでも評価されたいっていうのがありますね(笑)
一同 : (爆笑)
—– どちらもすごいまっとうだと思います(笑)
並 : これもまたサウンドクリエイターの個性とか方針とかそういうものによるんじゃないかと思いますね。
山 : 私も割と「この音楽気になるな」って言われて作った人調べたら「山田だった」って言ってもらえる方が嬉しいですね。
—– 実際にゲーム自体は不評なんだけど、音楽だけが有名になるケースって結構あるんですか?
並 : それは昔からありますね。人気の作曲家の方にファンがいたりもするので。
増 : ゲームの売れた本数より音楽のアルバムが売れた枚数の方が多いっていうのもありますね。
並 : それが一番分かりやすい例ですよね。要は音楽の方が全然売れているという。
増 : 超兄貴とかがそうでしたね。
—– ゲームサウンドを聴いたときに「これは誰が作った音だ」とかって分かったりしますか?
山 : そんなすごい人がいたら会ってみたい気もしますね(笑)
増 : いや、結構分かるかもしれないなぁー(笑)
並 : 今は作る側の人間なので分かる部分もありますけど、そうじゃなかった頃はどうだったかなぁー(笑)
—– でも誰々っぽいみたいな色は必ずありますよね。
並 : それはやっぱりありますね。例えばドラゴンクエストだったらすぎやまこういち先生の音楽っていうのは他の人じゃ真似できないものを作られているので、モノポリーとか別のゲームでも、すぎやま先生が作られている曲を聴いたときにはすぐに分かると思いますね。
あとロールプレイングゲームっていうと、ドラクエとかみたいにファンタジー的なのが主流だった頃に増子さんが30年位前に関わられた女神転生というゲームは、そういうのではないロールプレイングゲームで、バトルの曲がハードロックだったりっていうのはやっぱり斬新だったので、リスナーの方だったり、最近の若い子たちなんかもそういう音楽があったっていうのを掘り下げてディグったりしてるんですよ。だから個性はやっぱりあって、リスナーの方はそれをちゃんと追いかけているっていうのは普通の音楽と変わらない部分だと思います。知らないで聴いている方ももちろんいますけど、世の中そういう形で音楽を楽しんでいる方も結構いると思います。なので色々な世代の人に楽しんでもらえるものを我々が作れれば良いのかなと思います。
—– ゲームありきの部分とクリエイターの個性とのバランスが大事なんですかね。
増 : でも結局その人が作ったらその人の音楽になっちゃうんですよね。何をやっても。
並 : ゲームの音楽でもゲームと関係ないアーティストの方を招いて作られるケースも昔からありますからね。坂本龍一さんとか、久石譲さんとかがゲームの為に曲を書きおろしたりってことも、それこそPCエンジンの頃だから30年くらい前からありますから、そういうのも当たり前なのかなって思いますね。
—– ここからは今回のプロジェクト『rPSG』のことをもう少し聞かせてください。今回は架空のゲームではあるもののロールプレイングゲームをイメージしてそれぞれが楽曲を制作されたんですよね?
山 : 一応、お題をなんとなく決めて、イメージ画を作ってもらい、それに合わせてというかっこうにはなっているんですけど、いわゆる王道のRPG、城があって、魔王がいて、剣を持った勇者がいてみたいなのであえていきましょうということになっています。
その中でそれぞれが2つ曲を作っていて、1つは課題曲として戦闘シーンをイメージして作っていて、もうひとつは自由にロールプレイングゲームのイメージでどの場面でも、メインテーマでも良いし、フィールドでも良いし、闘いの場面でも良いしっていうのをそれぞれが好きな場面を想定して作るっていうのが2つ目のテーマになっています。
並 : 大喜利みたいなもんで、お題があってそれぞれのアーティストの方の個性が楽しめるのかなと。しかもPSGという基本的な縛りといえば縛りだけど、そういった表現方法というか、楽器がそれっていうことですね。
—– 同じテーマで作ったとしても、それぞれの個性でまた違った音楽を楽しめるという訳ですね。
山 : たぶん同じシーンを想定して曲を書いても全然違った曲が出てくると思います。
並 : いやぁー絶対違うでしょうね。
増 : 同じにはなりえないですね。
並 : ゲームという部分では同じかも知れないけど、それぞれキャリア的にも活躍された舞台的にも違うと思うので、メーカーであったり、ジャンルであったり、時期とかも。そういうのが違うということは当然アウトプットは違うんだろうなって思いますね。ただそこでPSGという共通の音色を使うことで違う中でも整合性やまとまりが生まれるんじゃないかなってところが今回の企画の面白いところだと思います。
—– 色々な感性が垣間見れそうですね。
沼 : 私の場合は優柔不断だっていうのが自分の弱点なので、作っていてどれが一番良いとかが分からなくなっちゃうですよね(笑)今日良いと思っても、翌日聴くとうーんって思ったりして、今回も戦闘曲だけで8曲くらいのボツ曲が。書いて捨て、書いて捨て、書いて捨てって感じでした。
増 : 俺はそういうのはあんまりやらないなー。一回思いついたらそれをどこまで追い込めれるかって感じですね。
沼 : じゃあ、山田さんと同じタイプですね。
並 : 自分は捨てるのもあれば拾うのもあるかな。一個浮かんだらいじり倒してほんとにどうにもならなかったら捨てちゃうけど。
沼 : 捨てるのって取っておきます?
並 : 本当に必要ないなって思ったら完全に捨てますね。
沼 : 私は全部捨てるんですよね。陶芸家みたいに全部割るみたいな。
増 : そんなもったいないことしないよー(笑)
沼 : よく言われます…。
—– 今回は制作段階でそれぞれ他の方の曲を聴いたりはしていないんですよね?
増 : そうですね。だから自分たちも他の人がどういうのを作ったのか楽しみなんですよね。
—– 皆さん経験値もすごく高いのでそういう面でも注目を集めるのではないかなと思います。
沼 : 今回、自由曲の方で何音使うかを考えたときにどんどん下がってきて課題曲と同じでも良いんじゃなかなとか思ったりして(笑)
増 : それはそれで全然ありだよ(笑)
沼 : やっていくうちにどんどん減らしていって、3音で良いんじゃないかとか思ったり、数じゃないなって思ったりしましたね。
並 : いわゆる弦楽四重奏とか色々あるんですけど、そういう音数をフルオーケストラで同じ音程をユニゾンで鳴らしたりっていうのとはまた違って、無駄を削ぎ落して最終的には俳句みたいになっていくみたいなところはありますよね。
増 : 自分の場合は昔よくやったんだけど、できるだけ音を削っていくと、聴いている人が勝手に脳内で補完してくれるんですよ。だからファミコンであえてベースを外した曲を書いてみたりとかはしましたね。
沼 : だから3とか5とか音が少ない時は脳が補完するっていうのを使って、本当は鳴ってないんだけど、鳴っているようにフレーズを持っていくように作ったりとかしますね。
増 : それはみんな割と身についていると思うんですよ。だから自分の曲なんかも今普通の音源を使っても、楽器の数は少なめなんですけど、ちゃんと曲として成り立っているのが不思議だって今の若い子らには言われるんです。
—– そういう部分も含め今回PSGでどういう風に表現されたのか、そして1枚のアルバムとしてどう仕上がったのか楽しみにしています。
増 : やっぱりPSGのお行儀作法みたいなのはありますよね(笑)
並 : そうですね。PSGって普通の感覚で音楽を作ろうとしても、まともな音にはならないと思うので、それをテクニックっていうか試行錯誤して仕上げるっていうか、コツがあるんですけど、言葉では言い現わせない部分もあるので、それは音を聴いていただくしかないですね。
インタビュー場所:16SHOTS
リリース情報
メーカーや所属を越え豪華アーチストが一堂に集結。
完全オリジナルの書き下ろしの楽曲を競い合う夢のプロジェクト
「RPG(ロールプレイングゲーム)」を楽曲の題材とし、80年代~90年代に各種ゲーム機器使用され、最近もまた注目されている「PSG音源」
同一イメージ(RPG)&同一音源(PSG)で作成される楽曲の数々・・・
メーカーや所属を越えた豪華アーチストを一堂に会し、完全オリジナルの書き下ろしの楽曲を競い合う夢のプロジェクト
【参加アーチスト】
・アトラス『女神転生シリーズ』の「増子 津可燦」
・SEGA『初期Phantasy Starシリーズ』のIzuho ‘Ippo’ Takeuchi こと「沼田 出穂」
・タイトー『バブルシンフォニー』やZUNTATAでおなじみ、Yaskoこと「山田 靖子」
・『BLEACH ヒート・ザ・ソウル』シリーズなど、manabnこと「並木 学」
・ProducerにMikittxxを召喚
rPSG
『feature in the past』
2018.02.24 Release
第一楽章 assigned「勇者VS魔戒~勝利」
psg#1 (music by macco)
psg#2 (music by IPPO)
psg#3 (music by Yasko)
psg#4 (music by manabn)
第二楽章 free program
psg#5「ゲームが始まります」(music by macco)
森の泉でゲーム説明~静かな街の中~フィールドへ
psg#6「村でのひととき」(music by IPPO)
宿屋で目が覚めた~村の中を散策~祭~結婚式~また村の中を歩く~宿屋に戻ってまた寝る
psg#7「Evolution」(music by Yasko)
旅立ち~不思議の国の識者との出会い~開眼~新たなる戦闘~帰還~新しい旅へと続く
psg#8「勇者の休日」 (music by manabn)
出逢いと別れの街~小さな依頼主~にげたワンコを追え!
第三楽章 bonus
psg#9「ワレイズル、タミウレウコトナカレ」(music by macco)
psg#10「鈍く光る剣」(music by IPPO)
psg#11「吹き出す炎」(music by Yasko)
psg#12「囚われし4人」(music by manabn)
LABEL : digitalSPEC Records
CAT NO : RPSG-18001
FORMAT : CD
PRICE : ¥1,600
rPSG Official Website
https://digitalspec.com/rpsg/
イベント情報
東京ゲーム音楽ショー 出展決定!
ゲーム音楽好きに贈る、ゲーム音楽コンポーザーが集う、ゲーム音楽家の見本市。物販ブースの他、サイン会や、この会場だけで楽しめるトークショー、ステージでのライブなどが盛りだくさん。
rPSGブースでは『feature in the past』の販売をはじめ、各アーティストが集い様々な情報を発信します。
『東京ゲーム音楽ショー 2018』
【日程】
平成30年2月24日(土)
開場時間/12:00 物販終了/18:00
【会場】
大田区産業プラザPIO 1F 大展示ホール
【料金】
前売り券/2,000円
当日券/2,500円
http://www.88nite.com/tgms2018/
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