展覧会『X会とパープルーム』2016年9月17日(土)~10月10日(月) ※土日祝日のみオープン at もりたか屋2階(福島県いわき市)
相模原にあるパープルーム予備校を拠点に活動しているアーティスト集団 パープルームが福島県いわき市で展覧会を開催。
『X会とパープルーム』と銘打たれ、いわき市の平に75年前まで存在していた『X会』という美術サークルと民間の私塾を母体とするパープルームが同期する展覧会となります。
『X会とパープルーム』
開催期間:2016年9月17日(土) − 10月10日(月) ※土日祝日のみオープン
会場:もりたか屋2階〈福島県いわき市平三町目34番地〉
開催時間:11:00−19:00
観覧料:1,000円(高校生以下は無料)
【出展作家】
坂本夏子
福士千裕
百頭たけし
KOURYOU
鋤柄ふくみ
フナイタケヒコ
高橋大輔
飯田 jennifer 桃子
山本悠
花粉になった野方の空白
urauny
リスカちゃん
新井夏菜
qp
若松光一郎(特別出品)
-パープルーム予備校-
安藤裕美
アラン
あま
智輝
梅津庸一
http://www.parplume.jp/tennji/tokusetu201609.html
若松光一郎
Composition 30.8.82
1983
h194×w390(3点組)
墨、カゼイン、和紙
個人蔵
坂本 夏子
夏(犬と坂道)
2014
h.194.0 x w.162.0 cm
キャンバスに油彩
©Natsuko Sakamoto, Courtesy of ARATANIURANO
Photo by Ichiro Mishima
リスカちゃん&パープルーム
パープルーム関連画像からリスカちゃんが生成して結晶化したもの『Parplume Art Fair』より
坂本 夏子 & 梅津 庸一
開戦
2014-2015
h.116.7 x w. 182.2 cm (2 pieces)
キャンバスに油彩
©Natsuko Sakamoto & Yoichi Umetsu, Courtesy of ARATANIURANO
Photo by Fuyumi Murata
諸芸術のタテモノたちが佇む聖なる廃墟— KOURYOU 「諸芸術のタテモノたちが佇む聖なる廃墟」2016
X会とパープルーム
まえおき
小田急線の読売ランド前駅を通過した先には広大な生田緑地が広がっている。公園に隣接した場所にあるその古民家は昔、とある日本画家の別荘だった。居間には蛙が描かれた文人画風の絵が掛かっていた。現在そこは古民家をそのままの形で利用した老人介護施設となっている。
わたしはそこで3年間アルバイト職員として働いた。わたしは夜勤専門で4人から7人の利用者、いや仮の家族を無事朝まで見守るのがわたしの仕事だった。夜間に配属される職員は1人だけだった。
全国にコンビニと同じくらいの数があると言われるデイサービスの介護施設は街の中に溶け込み全く目立たない。しかし語弊を恐れずに言えば、その内情は被災地の仮設住宅のような負荷が常にかかり続けている状態と言っても過言ではないだろう。
アルバイトという立場を完全に忘れてしまう瞬間はいくらでもあった。わたしにとってこの介護施設と『パープルーム』の往復こそが主要な活動だった。
2014年夏のある朝、施設で朝食の介助をしていると、テレビ画面に懐かしい顔が映った。大学の同級生だった押田君だ。震災を機に実家にもどったとなんとなく誰かから聞いてはいた。福島の復興をテーマにしたワイドショーでいわきの夜明け市場というところを紹介していて押田君が弟とともにインタビューに答えていた。どうやら押田君はいわきで居酒屋を経営しているようだった。しかしすぐにテレビから目を離さなくてはいけなかった。もう一度テレビに目をやると芸能人が映っていた。
そんなことはすっかり忘れかけていた2015年3月26日、Twitterで鋤柄ふくみさんが東北を旅行中に偶然、押田君といわきの夜明け市場の彼のお店で知り合ったことを知った。
その後2015年の10月に『カオス*ラウンジ』の市街劇『怒りの日』を観に行った際に夜明け市場に寄り、押田君と10年ぶりの再会を果たした。今回『パープルーム』が展示する会場の『もりたか屋』の会田勝康さんは押田君の友人でもある。この『もりたか屋』は展覧会のための会場「X」という事ではなく『パープルーム』にとって過去の清算と次なる一歩を踏み出すための舞台となるだろう。
X会と花粉の背景画としての展覧会
『X会』は旧制磐城中学校(現・福島県立磐城高等学校)の学生たちの手によって生まれた自主独立の美術サークルだ。第一次世界大戦の前年1913年の設立以来、真珠湾攻撃の前の月にあたる1941年の11月の展覧会が最後となったが、計57回も展覧会が催された。
『X会』の特徴のひとつに学生だけでなく一般人やプロの作家も入り乱れて参加したという点は注目に値するだろう。『X会』は洋画家の若松光一郎、詩人の草野心平などを輩出している。
『X会』設立の際、学生たちが抽出された濃密な有効成分を意味する『エキス会』を発案したが、当時の美術教師が数学を専門とする校長に打診したところ、未知数を表すX(エクス)とはなかなか良い名称だということになり『X会』に決定したという。この、言い間違いのせいか、聞き間違いのせいか、訛りのせいかは定かではないが『X会』という名称にはこんな経緯があった。
『X会』が太平洋戦争の余波で自然消滅してから75年が経ち、いわきでも『X会』の名は風化していきつつある。そんな局面で『X会』の舞台だった福島県いわき市の平に『X会』の設立からちょうど100年後の2013年に結成された『パープルーム』が召喚されたのは単なる偶然なのだろうか?
『パープルーム』と『X会』は活動の地域や形態の違いこそあれ似ているところがあるように思われる。自主独立の学生によって運営された『X会』、民間の私塾の形態をとる『パープルーム予備校』、それはともにオルタナティブな姿勢と言えるし、様々なクラスタを有しているという共通点がある。
『パープルーム』が『X会』の未知数「X」にパープルームの「P」を代入し『X会とパープルーム』として75年ぶりに、いわきの平に姿を表すことは必然だと思える。
本展にあわせて『X会』に所属していた若松光一郎の作品も遺族から借り受けることができた。それは現代の作家と若松作品との間に「戦後日本美術とそれ以後の流れ」とは異なるもっと即物的な絵画言語の連なりを出現させることだろう。だが、本展は、若松光一郎と現代の作家を接続し、『X会』を復活させるという見立てを提示することが目論みだとは言いがたい。美術に携わるプレーヤーは固有名を全面に押し出した当事者意識をはっきり持った作家だけが全てではない。表現というものの捉え方も関わり方も一様ではない、歴史化されたもの、それを望んでいるものだけが重要ではないということだ。
パープルームでは、しばしば花粉と呼ばれるものが作品の様式や感受性、理念、情報を媒介し伝染していくと言われてきた。花粉の前では学生や一般の市民やプロと呼ばれるプレーヤーの境は意味をなさない。宙をふわふわ舞う花粉はどこかで異種に受粉し新しい種「X」が生まれるという品種改良のように期待される成果のことだけではなく、その非物質的性質にこそ価値がある。花粉は足場の悪いフィールドの影響を受けない。歴史や様々な様式を個々の感受性で塗り固めた有形/無形の作品やその副産物たちを周到にインストールするためのストレージとしてこの展覧会は立ち上がる。民間の共同体が倉庫に組み上げる構造体は、美術や絵画というものを自明のものとして作られたものと、そうではないルールによってつくられたものがコンポジションされひとつの地形を成す。しかし花粉はこの構造をすり抜けていくだろう。また、設定された物語や共同体も花粉を捉える網の目としては粗すぎる。
花粉は受粉しなくても意味がある。かつて欧米諸国の植民地にされないために文化的なたしなみとして実装せざるを得なかった美術という制度は私たちが土人であったことを忘れさせるくらいの意味はあった。
美術への認知と認識の裏側で花粉とのX(クロス)は未遂に終わる。まさにその在りようが絵画なのだ。たとえそれが絵画的な特徴を備えていなくとも。
天体から降り注ぐX線は背景画としての展覧会を透過するだろう。花粉はそれとは関係なく不気味に漂う。
※『パープルーム』
教育機関であり活動拠点でもある「パープルーム予備校」、ウェブサイト「パープルームHP」、移動式の画廊「パープルームギャラリー」機関誌の役割を果たす「パープルームペーパー」他に「パープルームクッキング」、「パープルミーティング」、「ゼリー状のパープルーム容器」、「パープルームプーポンポン」などパープルームとは様々な水準の活動、事柄をまとめあげ、横断する運動体の名称である。Posted in ALL ENTRY, EVENT, EVENT INFO, RECOMMEND |